Isamu Noguchi Garden Museum 2


入り口で10ドルを支払い、中に入る。

ガーデンミュージアムと言われるだけあって、
広い空間に彫刻が点在していた。

なんとも面白い造りだ。

吹き抜け部分に15作品ほど、中庭にも15作品ほどが気持ちよい感覚で設置しており、
観覧者は思うがままに作品の周りを散策できた。

2階建ての館内の展示はさらに気持ちがよかった。

午後の光が差し込む大きな窓の展示室で、
Isamuの代表作が静かに鎮座している。

絶妙な間隔で、作品と作品が呼応する特異な空間。
日曜だというのに、観覧者はボク独り。
対話をするように作品を眺め、陽の光を浴びた。

光の中で、Isamuの作品は無言だった。

その無言ぷりが、観る者に平穏を与えた。
これは、とてつもないことだった。
寺院の仏像との対面が人々の心に安らぎを与えるのと、まさに同義だった。

何も語らず、何も諭さず、静かに対峙していた。

ゆるやかに移り変わる木洩れ陽に、その姿を変え陰影を伸ばす無言の石。
それが石だからか…時間の流れさえもが、ゆるやかに移る。

地球という球体の、沖縄とニューヨークを結んだ延長に、ここは位置する。
その遙かな距離を体現しようとして、眩暈がした。
ここまで導かれたプロセスは、あまりに長く、遠かった。

しかしそのプロセスが、この平穏をもたらしたと思うと、感慨もひとしおだった。

         至福の空間に、ボクは居た。

Isamu Noguchi Garden Museum 1


第一の目的地であるIsamu Noguchi Garden Museumは
クイーンズのギリシャ人居住区アストリアから10分ほどのところにある。

W-lineの「ブロードウェイ」と呼ばれる駅でおり、
イースト川方向へひたすら歩く。

きれいに整頓された住宅街を歩きながら、
自分が今ニューヨークにいることを把握できずにいる。

街路樹が輝く柔らかな陽の光、
さらさらと枯葉の舞う乾いた空気、
散歩をする黒犬に話しかける老人の声…。

どれひとつとっても
ここはニューヨークだ。

その場所で美術館を探し、さまよう自分がいる。
…どうもしっくりこない。

14時間におよぶフライトで眠れぬ夜を過ごしたあと、
到着した空港でも右往左往し、いやな汗を背中にかいた昨日までのような
苦痛が全く存在しない…ことが、返ってボクの居心地を悪くしたのかもしれない。

      空が広かった。

安らかな気持ちで、ボクはクイーンズを歩いた。
赴くまま歩いたせいで道に迷い、1時間ほどかかって美術館に到着。

まずは汗を乾かすべく、ジャケットを脱いだ。

To Queens from Brooklyn


翌日の日曜日、ボクは第一の目的地
「Isamu Noguchi Garden Museum」へ向かった。

そこはマンハッタンの東に位置するクイーンズにあるのだが、
そのままブルックリンを北上するコースはなかった。

「G-lineは最低のSubwayだから決して乗らない」

そんな助言もあって、ボクはL-lineでマンハッタンに入り、
ユニオンスクエアから北上してレキシントン駅を経由し、
W-lineでイースト川を渡る道筋を選んだ。

  
        ● 

しばらく、暗澹とした鉄箱の中で息を潜めていた。
初めてニューヨーカーに紛れ込んだ車内。

ツーリストとしての面持ちを隠そうと
気取ったサングラスをかけ、広告に目をやる。

駅構内のアナウンスを聞き取るべく、耳をそばだてる。

乗り継ぐべき駅を間違えないように、そわそわとしながら、
しかし決して悟られないように。

…今にして思えば、何を悟られないよう注意していたのかおかしな話だが、
おそらくニューヨークに溶け込むことが一番の安全だと思っていたのだろう。

レキシントン駅でクイーンズ行きと記されたプラットホームへ回り、
東へと進む。頭上にはイースト川が横たわっているのだ…と想像をめぐらす。

長い長い地下鉄独特のミニマリスムなサウンドにトランスしかけた時、
突然、太陽が光をもたらした。

晴れ渡った秋の、気持ちよく解き放たれた窓外の風景。
口を開け、完全に心を奪われ、頬も自然と弛んで、外を眺める。

…鉄の箱が左に旋回し、進路を北へ取ったその時に、
夢にまで見た摩天楼が、意外と大きな姿でボクの視界に入ってきた。

「おおおおおおおおおお」

         あああ~
               あれが、マンハッタンか。

先ほどまで地下を彷徨っていた島の全貌は、こんなに立体的にビルが林立していたのか。
いろんなドラマや映画に、映像として受け止めていたマンハッタン。
ブルックリンブリッジやマンハッタンブリッジの遠景として、スクリーンに納まっていた
あの立体的なビル群が、ボクの視界が捉える風景として、リアルに右から左へと流れていく。

いくら文明が発達して、ヴァーチャルの質がどれだけ上がっても、
この「あああああああ」という感嘆と、完膚鳥肌状態のリアルな感慨には、
決しておよぶことはないだろう…。
インターネットやライブカメラが光通信で「生」の映像を手元に届けたところで、
この肉体が五感で受け止める「本物」の感動には、決しておよぶことはないのだ。

ニューヨークに来て、よかった…と思えた瞬間だった。

45 Maspeth Avenue Brooklyn NY


45 Maspeth Avenue Brooklyn NY 11211-2511
ボクがお世話になったドミトリーの住所だ。

11月25日のコンチネンタル008便でニューアーク空港に降りたって、
寒空の夕暮れの中、当て処なく空港内をさまよい、なかなかニュージャージーを出ることができず。
NJトランジットと呼ばれる鉄道を使ってなんとかペンシルバニアStationへ。
やっとのことでマンハッタンに侵入したのは、到着から1時間半後。
そこからSubwayを行きつ戻りつし、どうにかして目的地のグラハム駅に辿り着いたのは夜の8時。
一人旅の初日は、やはり悪戦苦闘の幕開けとなった。