【野狐禅】ぐるぐる


野狐禅/ぐるぐる 
         作詞・作曲:竹原ピストル

その四角い囲みからは
今にも「希望」が溢れんばかり

ああ 卒業アルバムの中の 自分の個人写真から
思わず目を逸らしてしまいます

あまりの切なさに「遺影!遺影!」などと奇声を発しつつ
スキップを踏めば 焼酎の空き瓶ふんづけて
仰向けにドサリッと ぶっ倒れました

くるぶしを蚊を射されたときのような
やるせなさを 

ニコチンタールでコーティングされた
胸一杯に吸い込めば

ああ ボクとこの街との絆みたいな
生温かい夜風が カーテンを トントン叩きます

  涙があふれて 涙がこぼれ落ちそうになって
  ガムテープで 顔面を ぐるぐるにする
  涙は感情の 涙は感情の「墓場」だぜ
  ガムテープで 顔面を ぐるぐるにする

  
桜のアーチをくぐり抜けてから
一体どんくらいの 年月が流れたんだろ

ああ うまいこと 思い出せねぇな いや
思い出したところで ナンのメリットもありません

パンパンに 膨らんだ 東京23区推奨ごみ収集袋を
窓際に積み上げれば

ほら見たことか 未来まで 半透明に呆やけてしまいました

  
夜明けがキライ 夕暮れがキライと
ダダをこね

アホ丸出しのハムスターみたいに
空っぽの24時間を カラカラと回転させれば

その遠心力に堪えきれず
真夜中の 体育座りが 千切れ飛び
ああ 夜空は それを無表情に 吸い込んでゆくのです

  言葉(うた)があふれて 言葉(うた)がこぼれ落ちそうになって
  ガムテープで 顔面を ぐるぐるにする
  言葉(うた)は感情の 言葉(うた)は感情の「墓場」だぜ
  ガムテープで 顔面を ぐるぐるにする

  涙があふれたら 涙がこぼれ落ちそうになったら
  ガムテープで 顔面を ぐるぐるにしろ
  涙は感情の 涙は感情の「墓場」だぜ
  ガムテープで 顔面を ぐるぐるにしろ

    ●

オリュウノオバはそうやって二人の若い男らは、自分らが路地と路地のそれぞれに生まれた
同じ人間である事、路地のある紀州と環境のまるで違うそこに同じような路地(コタン)があり、
同じ宿命を持って生まれた事を確かめたのだと思ったが、いっそそれなら、ひ弱な女郎を相手にせず、
腕の血をすすり合うとか、血判を押して、望希楼にとぐろを巻く荒くれらをそそのかして暴動を起し、
道庁を乗っとり、新聞社を爆破し国をつくればよいと思ったが、二人は互いに体のどこかでひもが切れたように、
女郎が血を流し失心するまでいたぶりつづけた。二人は互いの手柄を確かめるようににんまり笑った。
二人が服を着替え階段を降りかかると女郎が眼ざめ、二人が宙に浮いて滑るように歩くのを見て声を呑んだ。
                            (カンナカムイの翼・中上健次著「千年の愉楽」より)

    ●

野狐禅と中上健次。
血脈や宿命といった自分ではどうしようもならない部分に
それでも抗い、傷つき、果てることを美しいとする感性。
ニッポン人に今、大きく欠けているのは、この感性だと、断言する。

誰もが人生から、宿命から、自由だ、自由だと、奇声を上げ、
ドタバタと周りを傷つけ、それでも我田引水に我欲を剥き出しにし、
好き放題に領地権争いの目くじらを立て、短い人生を我がモノ顔にすることが真っ当だと勘違いしている。

己の人生は、代々連綿と続く「人間」という生命体の一翼を担っているだけであり、
「人間」として何を引き継いでゆくのか…という一点に、曇り無い眼で応えてゆくことが本望だとする
彼らのメッセージをしかと受け止めて生きている人は、少ない。