
その頃、わたしは若かったし、人並み以上に強かった。
どんなことでも、と自分では思っていた。
夜、アルバイトで、検屍のすんだ後の解剖室を掃除していた。
解剖がすごく早く終わることもあれば、
ずいぶん遅くまでかかったりすることもあった。
そうすると、なんと、あの特別にしつらえられた台の上に
残骸が放置されていたりするのだ。
コチコチに冷たくなった赤ん坊。
ある時は、黒人の大男。白髪のやつで、胸が切り開かれていた。
内蔵がすべて頭の横の金属皿の上に並べられている。
ホースから水が流れ、頭上からはライトが照りつけていた。
またある時は、脚が置いてあった。女性の脚が台の上に。
青白い格好のいい脚。わたしは、自分の見ているものが何であるか、
ちゃんとわかっていた。前に何度も見たことがある。
それでもなお、はっと息を飲んでしまうのだ。
夜、家に帰ると妻がこう言う。
「大丈夫よ。この世が終わればあの世がある」
だが、それほど単純にわりきれない。
妻はわたしの手をとって、両手でしっかり握りしめた。
わたしはソファーにもたれて目をとじた。
何かを…考えながら。
何を考えていたのかわからない。
妻がわたしの手を自分の胸に持っていく。
その時、わたしは目をあけて、天井を見る。
あるいは床をじっと見つめる。
それからわたしの指は彼女の脚へ。
温かく、格好のよい、
かすかに触れただけで震えだし、びくっとする脚。
だが、わたしの心は晴れず、落ち着かない。
何も起こってないのに、
いろんなことが起こっていた。
研ぎすまされ、どんどん尖っていく石……生命とはそんなものか。
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トムウェイツを聴いて、カヴァーが読みたくなった。