HOLGA東京近景〈ドウゲンザカ〉


渋谷道玄坂のアーケード。
13年前と変わってない。

カメラマンアシスタントをしていたころは、
毎夜このアーケードをくぐっていた。

事務所が神泉だったので、
道玄坂のホテル街が近道のルートだった。

カネもなく、時間もなく、疲労だけがたまっていく。

朦朧とした目つきで、うらめしくヤブ睨みを利かせながら、
ホテルの立ち並ぶ歓楽街をうろついていた。

何が起きるわけでもなし。
何ができるわけでもなし。

ただ、行き場のない欲望を抱かえ、
彷徨するのが関の山。

そうなると、ストイックにすべてを拒絶するしか道はなかった。

友だちとも連絡を絶ち、
飲み会などの集まりにも参加せず、
ひたすら孤独を愛し、自己完結の世界を好んだ。

小難しい書物に対峙し、
難解な文章を写経のように丸写しし、
ノートが文字で埋まることに快楽を感じていた。

かなり暗い25歳だった。

13年ぶりにその道玄坂を歩いてみると、
今でもその冷え切った「心」を思い出す。

この土地は、相も変わらず歓楽街だ。
人の欲望を呑み込むことで、生成している。

しかし、あの時の鬱積した思いは、
今の自分にとっては、「宝」だ。

あの時の屈折があるから、今がある…。
あの暗さが、今の自分を生成している。

だから、この土地が好きなのだ。