
…今夜もこんな時間だ。
すでに「ジェットストリーム」も始まった。
金曜の夜だというのに、切ない話だ。
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7thAveで立ちつくしたボクは、
なんとかVillageVanguardまでたどり着くことが出来た。
時刻は21時10分。
大概のJazzclubがそうであるように、
TomHarrellの出演も押していた。
ボクは胸をなで下ろして、トイレへと向かう。
すると、なにやらブツブツと独り言を言っている男がいた。
用を足し、トイレを出ると、TomHarrellがいた。
先ほどの独り言が、Tomだったのだ。
背中を丸め、足をガクガクと震わせて、落ち着きがなかった。
かなりくたびれた老人だった。
不安な気持ちで開演したステージを伺う。
…予感は的中した。
Tomの風貌はかなり奇妙だった。
絶えず口を動かし、瞼を閉じ、中空を見上げていた。
黒ずくめのスーツの上に防寒用に黒のジャンパーを羽織っていた。
どうみても、変だった。
Tomをサポートするリズム隊とサックスは皆黒人で、若手だった。
若手だが、どっしりとしていた。
Tomだけが、借りてきたネコ状態に落ち着きがない。
いきなり、テーマを吹き間違えた。
サックスのソロが始まると、上手の袖に引っ込んでしまった。
Tom は演奏を待つあいだ、落ち着きなく歩き回り、
ステージを出たり入ったりした。
しかし、ソロはステキだった。
燻し銀のトランペットソロだった。
紡ぎ出すメロディが美しかった。
音色が半端なく、柔らかかった。
落ち着きのない老人だったTomが、
ソロのあいだは、jazzMusicianとして存在していた。
このギャップがJAZZだと、思った。