Tom Harrell at the Village Vanguard その2


…今夜もこんな時間だ。
すでに「ジェットストリーム」も始まった。
金曜の夜だというのに、切ない話だ。

    ●

7thAveで立ちつくしたボクは、
なんとかVillageVanguardまでたどり着くことが出来た。

時刻は21時10分。
大概のJazzclubがそうであるように、
TomHarrellの出演も押していた。

ボクは胸をなで下ろして、トイレへと向かう。
すると、なにやらブツブツと独り言を言っている男がいた。

用を足し、トイレを出ると、TomHarrellがいた。
先ほどの独り言が、Tomだったのだ。
背中を丸め、足をガクガクと震わせて、落ち着きがなかった。

かなりくたびれた老人だった。

不安な気持ちで開演したステージを伺う。

…予感は的中した。

Tomの風貌はかなり奇妙だった。
絶えず口を動かし、瞼を閉じ、中空を見上げていた。
黒ずくめのスーツの上に防寒用に黒のジャンパーを羽織っていた。
どうみても、変だった。

Tomをサポートするリズム隊とサックスは皆黒人で、若手だった。
若手だが、どっしりとしていた。
Tomだけが、借りてきたネコ状態に落ち着きがない。

いきなり、テーマを吹き間違えた。
サックスのソロが始まると、上手の袖に引っ込んでしまった。

Tom は演奏を待つあいだ、落ち着きなく歩き回り、
ステージを出たり入ったりした。

しかし、ソロはステキだった。

燻し銀のトランペットソロだった。
紡ぎ出すメロディが美しかった。
音色が半端なく、柔らかかった。

落ち着きのない老人だったTomが、
ソロのあいだは、jazzMusicianとして存在していた。

このギャップがJAZZだと、思った。