【Nov_08】マルセルの「存在と神秘」


マルセルの診断によれば、
「問題」であふれかえり、欲望と恐怖で彩られ、
技術が支配している世界は絶望的である。

この世界では目先の利益や経済効率を追求する傾向が過剰になり、
裏切りや隠匿、自殺や死傷といった様相が顕著になるからである。

この世界は、最悪の方向へと傾斜していき、悲劇的な結末を迎える。

それゆえに、マルセルは技術の部分的な成功を認めつつも、
技術が人間そのものを救えないがゆえに、
技術は全体としては破産していると断ずるのである。

マルセルはまた、人間が技術に身を託す結果、
時には技術の制御が不可能になる事態と、
それに伴って人間の自己制御が不可能になる事態を指摘している。

制御不可能なモンスターと化した技術が、
それを作り出した人間をも呑み込んでしまう…という、
最悪の悲劇の予見である。

技術の進歩に対する楽天主義は、
将来の観たくもない結末を直視しない狭量な現状肯定の思考に支えられている。

それは予見できる事態から目を塞いで、
現在の快を求めて悪しき方向へと傾く人間の傲慢のあかしでもある。

傲慢さは、己の欲望の追求の犠牲になるものたちへの
非情なまでの無関心と無視の態度にも結びつく。

マルセルは、この種の傲慢さが、人間の破壊に結びつくことを憂慮している。

それゆえに彼は時代の技術化に抗して、
技術的なものの支配する功利的な次元とは異なる実存的な次元の生を主題化する。

この主題化は、
「問題」に関わる次元で功利的なモノへと
追い立てられる生への抵抗のあかしであり、
マルセルに固有な時代批判に通じている。

(「現代文明の危機と人間」by 和田渡著)