大道の9年間 その3 ~栄町りうぼう~


森山大道の写真展に行った時、
芳名帳に住所を記入していて、ひとりほくそ笑んだ記憶がある。

「大道」

この響きには、胸騒ぎがする。
社会をProvokeする、Agitateする勢いがある。

「プロヴォーク」といえば、中平卓馬だが、
写真家とは、写真行為で現実を捉えながら、
現実を転覆させるアジテーターな存在なのだ。

ここ「大道」は占領下のアメリカ世の時代から、
特殊飲食街いわゆるアカセン「栄町(さかえまち)」として栄えた。
今も、「旅館」を掲げた特飲店が数多く点在する。

その光景は新宿ゴールデン街の森山大道そのものだ。

栄町市場といい、アカセン「栄町」といい、
「大道」の名にふさわしい混濁した欲望が浮遊している。

9年前のボクは、そんな雰囲気にノックアウトされ、住み着いたのだった。

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ここ「栄町りうぼう」は「栄町」を背後に
24時間オープンしているスーパーマーケット。

タイムサービスやワゴンセールスに出くわすと
スーパーの照度では、ちょっと濃すぎる
往年の女性たちが列をなしていたりする。

黒づくめのゴージャスな衣装に、
ゴージャスなつくりの顔(眉、眼、唇…)。
強烈なパフュームを漂わせながらも、
足許は、素足にサンダルの出で立ち。

妖しげな赤い照明の下では、
年齢不詳な魅惑の女性たちも、
スーパーの中では、ただの厚化粧女だ。

アメリカ世の世界観を引きずった女版「浦島太郎」…。

「栄町」のいつまでも変わらない
そんな取り残された感が…ボクは好きだった。